不動産を相続したら最初にやるべき“調査”とは?遺産に眠る物件を見つける方法
相続で不動産を引き継ぐことになったとき、最初に行うべきは「調査」です。相続財産の中には、登記されていない建物や忘れられた共有持分など、相続人自身が把握していない不動産が含まれているケースもあります。本記事では、不動産鑑定士の観点から、名寄帳・固定資産税台帳・登記簿を使った調査と、権利証/登記識別情報の確認、未登記不動産の見つけ方、さらに見落としがちな特殊ケースまで、実務の流れで解説します。
目次
- 名寄帳・固定資産税台帳・登記簿を使った調査方法
- 権利証・登記識別情報の確認
- 未登記不動産の可能性と発見事例
- 相続人が見落としがちなケース(私道、地目非課税地など)
- まとめ/専門家に依頼するメリット
- よくある質問(FAQ)
1.名寄帳・固定資産税台帳・登記簿を使った調査方法
名寄帳(なよせちょう)
- 概要:一人の納税者が所有する固定資産(土地・家屋)の一覧。市区町村の資産税課などで取得。
- 使い方:被相続人の氏名・住所で請求し、当該自治体に存在する不動産を漏れなく洗い出す。
- 注意:自治体ごとの管理のため、複数自治体に資産がある場合は各自治体で個別に取得が必要。
固定資産税課税台帳(課税明細)
- 概要:課税対象の所在地、地目、地積、家屋評価額などを確認できる。
- 活用:評価額や現況の把握、未登記の手がかり(課税はあるが登記が無い等)の検知に有効。
登記簿(登記事項証明書)
- 概要:法務局で取得。所有者、地番、地目、地積(建物は種類・構造・床面積等)を確認。
- 照合作業:名寄帳・課税台帳の物件リストと地番/家屋番号で突き合わせ、登記の有無・名義人・権利関係(抵当・地上権等)をチェック。
- 未登記の兆候:課税あり・現地に建物ありなのに登記簿が見つからない場合は未登記の可能性。
2.権利証・登記識別情報の確認
被相続人の自宅や金庫、保管箱、顧問税理士・司法書士の手元に権利証(登記済証)や登記識別情報が残っている場合があります。相続登記・売却・担保設定などの際に必要になることが多いため、まずは保管状況を確認します。
- 見つからない場合:慌てずに登記簿で所有者情報を確認。手続き自体は本人確認情報などの代替手続で可能なケースも。
- 名義が古い場合:名義人が祖父母のまま等は、早めに相続関係の整理(法定相続情報一覧図・戸籍収集)へ移行。
3.未登記不動産の可能性と発見事例
未登記不動産とは、物理的に存在するのに登記がされていない不動産(主に建物・増改築部分など)です。古家・離れ・車庫・物置・農地上の簡易建物などに多く見られます。
こういう時は未登記を疑う
- 課税台帳に家屋の記載があるが登記が存在しない。
- 現地に建物・増築部分があるのに登記に反映されていない。
- 相続人が居住しているが名義が祖父母のままで、建物のデータが分断されている。
発見→整備の流れ(実務フロー)
- 現況確認:現地写真、平面スケッチ、建築時期のヒアリング。
- 資料照合:固定資産税(家屋)課税明細、名寄帳、登記簿を突合。
- 専門家連携:内容に応じて司法書士(表題・所有権登記)/土地家屋調査士(表題登記・測量)に依頼。
- 是正:表題登記→所有権保存登記→必要に応じて相続登記・名義整理。
4.相続人が見落としがちなケース(私道、地目非課税地など)
私道(位置指定道路、通路敷)
- 見落とし要因:固定資産税が非課税または減免で、課税明細に出にくい/目立たない。
- 確認方法:法務局の図面(公図・地積測量図)で道路状況・地番の有無を確認。名寄帳に出ない場合もあるため現地と図面の突合が重要。
- 後日のリスク:売却や再建築時に通行権・掘削承諾が問題化することがある。
地目が非課税地(墓地・公園用地・山林・原野 等)
- 見落とし要因:固定資産税の課税対象外/軽減により、課税明細のみでは把握しづらい。
- 確認方法:登記簿と公図で存在と地目を確認し、現況と齟齬がないかを現地でチェック。
- 相続設計:利用価値が乏しい土地は、分筆・用途転換・売却・等価交換・国庫帰属などを早期検討。
まとめ:名寄帳+課税台帳+登記簿+現地確認が基本セット
- まずは名寄帳でその人名義の不動産を自治体ごとに網羅。
- 課税台帳で評価情報・現況を補強し、未登記の兆候を探索。
- 登記簿で権利関係と名義の古さを確認し、必要に応じて相続登記へ。
- 現地確認で実体と書類の整合をとる。私道・非課税地は特に注意。
よくある質問(FAQ)
Q. 名寄帳はどこで取得できますか?
A. 原則として不動産の所在する市区町村の資産税課等で取得可能です。遠方の場合は郵送請求に対応している自治体もあります。
Q. 権利証(登記済証)や登記識別情報が見つかりません。
A. 所有の有無は登記簿で確認できます。相続登記や名義変更は、権利証が無くても本人確認情報等の代替手続で進められる場合があります。司法書士へご相談ください。
Q. 未登記の建物が見つかったらどうすればよい?
A. 表題登記→所有権保存登記→(必要に応じて)相続登記の順で整備します。土地家屋調査士・司法書士との連携がスムーズです。
Q. 私道や非課税地はなぜ見落としやすい?
A. 課税が無い(または軽微)ため、課税明細に出づらいことが要因です。登記簿・公図・現地をあわせて確認することで漏れを防げます。