はじめに
相続財産に不動産が含まれる場合、相続人全員で「共有」する形を選択することがあります。相続開始時には分割が難しいケースも多いため、一見すると妥当な解決策に思えます。しかし、不動産の共有は将来的なトラブルの火種となりやすいことが実務上知られています。以下では、その主な理由とリスクを解説します。
共有不動産の管理に関する意思決定の難しさ
民法上、不動産の共有は次のように定められています。
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保存行為(建物修繕などの不動産が使用収益可能な状態を維持しようとする行為):各共有者が単独で可能
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管理行為(賃貸・維持管理など不動産を管理する行為):持分の過半数で決定
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変更行為(売却(不動産全部)・増改築・抵当権設定など):全員一致が必要
このルールにより、共有者間で意見が割れると意思決定ができなくなることが少なくありません。例えば、賃貸に出したい相続人と、自宅として利用したい相続人が対立すると膠着状態に陥ります。
将来的な世代交代での共有者増加
相続が繰り返されることで、共有者の数は雪だるま式に増えます。数十年経つと、遠縁の親族まで含めて多数の共有者が現れるケースも珍しくありません。こうなると、連絡・合意形成自体が困難になり、売却や有効活用が不可能となる恐れがあります。
また、自身の持分単体の売却は他の共有者の同意なく行うことができるため、気づかないうちに全く知らない人間(持分買い取り業者など)が共有者になっている可能性もあります。持分単体としての価格は市場性が劣り、持分単体の価値=全体の価値×持分割合×市場性が劣ることによる減価率、のように計算されるため価格としては大幅に落ちるものの、少しでも現金が欲しいと考える共有者は持分を売却する可能性があります。
不動産の利用方法をめぐるトラブル
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共有者の一部が無断で使用する
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修繕費や固定資産税の負担割合をめぐる争い
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賃貸収入の分配をめぐる不公平感
- 他の共有者が変更されることによるトラブル
こうした問題は、感情的な対立を引き起こし、親族間の関係悪化につながりやすいのが実情です。
売却・換価分割が困難になる
共有不動産(全部)を売却するには、原則として共有者全員の合意が必要です。(自身の持分の売買自体は単独で可能)
一人でも反対者がいると、売却は不可能になります。最終的には裁判所に「共有物分割請求訴訟」を提起しなければならず、時間・費用・人間関係への負担が大きくなります。
トラブルを防ぐための対応策
相続によって不動産を共有した場合、後の意思決定や管理で大きなトラブルを招くことがあります。
こうした事態を未然に防ぐためには、相続発生の前後でそれぞれ適切な対応をとることが重要です。以下では、実務上有効な3つの対策を詳しく解説します。
① 遺言や遺産分割協議で共有を避ける
相続財産に不動産が含まれる場合は、できる限り「共有」とならないように分割することが望ましいです。
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換価分割(かんかぶんかつ)
不動産を売却して得た代金を相続人間で分ける方法です。
感情的な対立を避けやすく、将来的な資産管理の煩雑さも残りません。
市場価格の把握が重要なため、不動産鑑定士による時価評価を行ってから売却価格を検討するのが理想です。 -
代償分割(だいしょうぶんかつ)
特定の相続人が不動産を取得し、他の相続人に対して代償金を支払う方法です。
たとえば、相続人の一人が自宅を相続し、他の相続人には金銭で公平を図るケースなどです。
このときも、鑑定評価書による客観的な価格の裏付けがあれば、後のトラブル防止に大きく役立ちます。 -
遺言書の作成段階で共有を避ける記載を
遺言書を作成する際に、共有を避ける分割方法を明示しておくことで、相続発生後の混乱を未然に防ぐことが可能です。
専門家(不動産鑑定士・弁護士・税理士)による事前の連携が有効です。
② 相続発生前に資産整理を行っておく
相続が発生してからでは、分割協議の選択肢が限られてしまうことがあります。
そこで、生前に不動産の評価や資産整理を進めておくことが大切です。
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事前に評価額を把握しておく
不動産鑑定士による時価評価を行えば、遺留分(他の相続人が最低限取得できる権利)や税負担を具体的に見通せます。
たとえば、自宅を長男が相続したい場合、その不動産の適正価格をもとに、他の相続人が納得できるような配分や代償金額を設計することが可能です。 -
生前贈与や買換えなどによる整理
利用していない土地や収益性の低い不動産を売却して現金化しておくことで、分割を容易にし、将来の紛争リスクを減らせます。
また、売却時の譲渡所得税なども考慮しながら、相続発生前に全体の資産バランスを整えることが重要です。
③ 共有を選ばざるを得ない場合の工夫
やむを得ず不動産を共有とする場合には、将来のトラブルを最小限に抑えるための「ルール作り」が欠かせません。
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共有者間で「利用・管理規約」を作成
使用方法、修繕・税負担の分担、賃貸収入の分配などを明確に定めておくことで、感情的な対立を防ぎます。
文書(合意書)として残すことが重要です。 -
将来の売却や譲渡のルールを決める
「持分の第三者への譲渡は他の共有者の承諾を要する」など、将来の利用・売却に関する約束を事前に定めておくと安心です。 -
定期的な話し合いと評価の見直し
地価や利用状況は時間とともに変化します。
不動産鑑定士による定期的な再評価を行い、持分調整や賃料見直しを行うことで、共有関係を健全に維持できます。
まとめ
不動産の共有は、短期的には「とりあえずの解決策」として選ばれがちですが、長期的には大きなトラブルの原因となることが多い制度です。相続段階もしくは相続発生前に共有を避ける工夫、あるいは専門家の関与による適正な分割方法の選択が、円滑な相続の鍵となります。
相続による不動産の共有や分割でお困りの方へ。
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